『THE 呪いのゲーム(SIMPLE2000シリーズVol.92)』第一回
■誰が知ってるんだこんなゲーム。
という声が飛んできそうな、2005年のゲーム、『SIMPLE2000シリーズVol.92 THE 呪いのゲーム』。僕はこれを買ったとき、ちょうど中学生だった。僕は発売日当日に買った。当時の僕は『かまいたちの夜』とか『弟切草』にハマっていて、ちょうどサウンドノベルというものに並々ならぬ興味を抱いていた頃だったのだ。だから買ったよ、発売日に新品をね。
でも、発売日の学校終わりに行ったのに、ゲーム屋に置いてなかったのだ。
店頭のどこを探しても見当たらない。新商品のコーナーからホラーゲームのコーナーから、とことん探したんだが見付からない。こんなに探したのは忌野清志郎 feat.RHYMESTERの『雨上がりの夜空に35』のCDかこれかってくらいだ。それくらい探した。
これだけ探しても見付からない。どこにもない。
けれど当時の引っ込み思案で根暗の少年に、店員さんに訊くなんて芸当が務まるはずもない。つーか「『呪いのゲーム』ありますか」なんて訊けるか? 店員さんに「何を言ってるんだろう」とか怪訝にされるに決まってるじゃないか。絶対そうだ。それならまだ「『女子高生の放課後 ぷくんパ』ありますか」の方がマシだ。
だから僕は必死で探した。部活終わりのへとへとの身体をさながら乱装天傀のようにどうにかこうにか動かして、ようやく見付けたのはレジ横の在庫の棚。並んどらんやんけ。憤慨もせず、僕はそれをそっと手に取った。よし、と思ったのも束の間、次の障害が立ち塞がる。レジ横の棚にあったけど、これそのままレジに持って行っていいものだろうか? 当時の(中略)少年に、その問題はとても大きなものだった。店員さんに怒られるんじゃないかと思い、『THE呪いのゲーム』を手にしながら何度もゲームコーナーを歩き回った(怖い)。
でも実際、レジに行ったら何てことはなかった。普通に買えた。あの店唯一と思われる在庫を手にして、少年は自転車で帰宅した。気付けば10年も昔の話だ。
■誰が買うんだこんなゲーム。
という声が飛んできそうなこのゲーム。僕が買ったよ。中学生の少ない小遣いで買ったよ。うるせー。
いや、けれど実際このゲーム、2100円(税込)にしてはむちゃくちゃ面白いのだ。けれどその割には、このゲームの知名度、そしてレビューはあまりにも少ない。僕としてはちょっと悲しいものがある。そして同時にこうも思ったのだ。「このゲームの感想書いたら、検索エンジンの『THE呪いのゲーム 感想』の1ページ目に出て来るんじゃねーか?」と。そんなわけで、書くことにした。好きなゲームの話だから、きっと面白いレビューが書けるに違いない。そう思って僕は、キーボードを叩くことにした。
■誰がやるんだこんなゲーム。
と思った方、あなたの言いたいことはとてもよく解ります。僕もたまに思うし。
そう、このゲーム、語弊を怖れずに言うならば、ゲーム本編はまるで面白くない。(語弊)
けれど僕のなかでとても大事な一本になっている。その理由をつらつらと書いて行こう。
ちなみに、お恥ずかしいことに僕は、グッドエンド1つバッドエンド5つの全6エンド中、グッドエンドのみしかやっていない。そんなのでいいのかというお声、とてもよく解ります。でも別に全ルートを埋めることだけが楽しみ方じゃないし、トロフィーがあるわけでもないし。
じゃあ何が大事なのかって言うと、本編じゃないなら特典ってことだ。
かく言う僕は、友達の家に遊びに行くたびに『MGS2』のおまけの「SKATEBOARDING」(スケボー)ばっかりやってたし、そんなに珍しいことでもない。ちなみに違う友達はうちに来るたびに『SIREN2』のおまけの「国盗りす*1」ばっかりやっていた。そんな感じなので、まあ仕方ない。
■何を楽しむんだこんなゲーム。
そうお思いになるだろう。このゲーム、実は特典こそが本編なのだ(語弊)。というわけで、じゃあ何が入っているかっていうと、約1時間の映画が収録されているのだ(歓声)。映画だ。そう、聡明な読者諸氏は今回のブログに「ゲームの感想」の他「映画の感想」が含まれていることに気付かれることだろう。そう、映画なのだ。
■映画を楽しむんだこのゲームは。
この映画、作りは非常にチープで、B級映画の様相を呈している。なのに主演は三輪ひとみさん。もう一度言う、三輪ひとみさんが主演なのだ。三輪ひとみさんはとても美しい。大好きだ、本当に好きだ。ちなみに三輪さんは赤坂でバーを営んでいるので、気が向いたら是非足を運んでみてほしい。お洒落で妖艶な雰囲気のとても居心地のいいお店だ。
赤坂の隠れ家のようなBAR【Bonne eau】
ところで実は、僕の持っている『THE 呪いのゲーム』には三輪さんのサインが入っている(自慢)。パッケージ表とパッケージ中身と、更にはディスクにまでサインが入っている。三輪さんは仰っていた、「このゲームにサインなんて初めて」と。
でしょうね。
で、サインまでもらった、10年も昔のゲームを今こうしてブログで取り上げるのは、しかしちょっとした勇気のいる作業でもある。どうしてかっていうとゲーム内容の記憶は微塵も残っていないってことだ。思い出せない。
だって本編は特典映像だからだ。
■どんな映画なんだこのゲームは。
さて、この映画の内容としては、“呪われたゲームを始めてしまった主人公が、編集者の男と一緒に解決に向かって行く”という非の打ち所のないくらいに単純明快な物語だ。ホラーはやはりこれくらいB級の方がいいのだ。伽椰子が階段を猛スピードで降りて来るよりも、内臓のない真田広之が起き上がる方が何倍もいいのだ(どういう意味だ)。
というわけで、三輪ひとみさん演じる主人公、その友達・宍倉智佳(演:たなかえり)、編集者の男・乾井(演:舩木壱輝)が主な登場人物。たなかえりさんはクウガに出てたらしいけど俺は最終回の殴り合いしか観てないからさ、みんなごめんな。ここで注目していただきたいのが、編集者・乾井さんだ。
■乾井さんなんだよこのゲームは!
この男、なかなかに面白い。狙っているのかいないのか、最初の登場シーンから既におかしい。乾井さん登場1カット目、仕事中に居眠りをしているシーンから始まる。どうなんだろうという体勢から、電話の着信で目をさまし、受話器を手に取る乾井さん。
乾井「はい、もしもしペンスタッフぅ~……」
この語尾。たまらない。どうしようもないくらいに笑えてくる。いや、寝起きの人間は大抵こうなのだ、僕も寝起きだと電話でバレるし。なんでバレるんでしょうね、あれ。困りますよね。寝てないですよ。寝坊してたりしないですよ。二つで十分ですよ。
この男、登場シーンからとてつもない存在感を放っている。他の登場人物が比較的まともな部類の人間であるがゆえに、殊更にそれが浮き立つ。そういえば小説とか映画とかで同業者や編集者とかを安易に出すのは地雷だって聴いたことがあるけど、乾井さんはデイビー・クロケットばりに炸裂した。どういう意味かは考えるな、感じろ。
友達である智佳が失踪したので、その職場に電話をかけた主人公。まさかこんなふうに応対されるとは思ってなかっただろう。そう、既に智佳は失踪しており、彼女は呪われたゲームのプレイヤーだったのだ。とかなんとか、そんな怖そうな展開はこの乾井さんによって破壊される。だって面白いんだもん。『死霊のはらわたⅡ』で片腕に○○○○○○をくっ付けて○○○を抱えた主人公を観たときくらいの笑いだ。ホラーに笑いは外せない。いや別にこの映画の笑いが100%乾井さんに帰結するという訳では決してない。決してないが、否定はしない。乾井さんの存在は物語にちょっと変わった風を吹き込むし、物語を動かす狂言回しの役割も買って出てくれるのだから心強い。『死霊のはらわたⅡ』の(中略)主人公くらい頼もしい。
乾井「宍倉智佳さん?」
乾井「あー僕も忙しくて聴いてないんだけど、彼女昨日から来てないですよ」
乾井「ええ。あ、二、三日くらいですね。連絡もないんですよ」
乾井「今日来てないですね。ええ。もしもし? もしもーし?」
そら電話切られるよ。
失踪した友人を捜して、その友人の勤め先に電話をかけた主人公、まさかこんな相手に当たるとは思ってもみなかっただろう。ちなみにこのあと主人公には失踪した友人からメールが届くのだが、そのときにガラケーを開く仕草がかわいい。一度開きそこねるのだ。かわいすぎたので自分の自主映画でオマージュした(誰が気付くんだ)。
■同僚なんだよ乾井さんは。
電話がなしのつぶてに終わったので失踪した友人を捜しにマンションを訪ねる主人公。田舎の民家ばりに鍵の空いているマンション。そこで友人がゲーム内に閉じ込められていることを知る。別に『クラインの壺』とかそういうことじゃない。
その帰り、主人公は、背後から迫る気配に気づく。歩くと歩き、停まると相手も停まる。「追われている」そう確信する主人公(そら確信するわ)。恐怖に走り出すと、相手も走って追いかけてくる。逃げる主人公。追いかけてくるスーツの男性。走る、走る、走る。そして自転車の倒れる音で主人公は立ち止まり、振り返る。
そこにいたのは、そう、
乾井さんだ。
乾井さんは言う。
乾井「違うんだ、宍倉智佳さんのことで」
何が違うのか。自転車を数台、もたれるように倒しながら、乾井さんは必死に言う。
乾井「電話。電話くれた人だよね? あの、いてててて、あの、彼女の部屋から出て来るの、見たからさ」
足元を見るとゴミらしきビニール袋に片足を突っ込んでいる。そうか、ゴミにひっかかってコケたんだな。それで自転車の群れに飛び込んだ、と。うんうん。そうか、コケたんならね。仕方ないね。でももっといいコケ方があったんじゃないか?
主人公「あなたは?」
乾井「同僚の、乾井です」(+さわやかスマイル)
そんな乾井さんに、主人公は眉をひそめる。そりゃそうだよ。でも爽やかなのが奏功してか、二人はふたたび宍倉智佳のマンションへと赴く。作中でこそ描かれていないが、きっと道中はそれはそれは面白い雰囲気だったに違いない。そんなわけで、キーパーソンである乾井さんが登場し、物語は動き(ホラー映画から逸脱し)始める……。
レビュー第二回へ続く。
(いつ書くかは知らないよ)
*1:読み方は「くにとりす」。